自然の色彩と肌合いが味わい深く調和し、伝統美を表現できる

土壁塗は我が国在来の工法で、長きにわたる左官技能工の経験と知恵の積み重ねで培われてきたもの。材料はほとんどが天然産で、もともと各地で入手しやすい材料が使われてきたことから、地方によってさまざまな仕上げがある。現在の土壁工法は、主に京都に伝わる技法を中心としており「聚楽土仕上げ」「大津壁仕上げ」などがその代表と言える。
本聚楽水捏ね仕上げ
歩掛 2m2/人日
特徴 聚楽土に砂・スサを加えて水でこねた主材料を鏝で押さえて仕上げる。独特のきめ細かで品のある表情が美しい
京土中塗仕上げ   白大津仕上げ   赤大津磨き仕上げ
歩掛 4m2 /人日
特徴 中塗土の持つ素朴で豊かな素材感を表現する伝統の仕上げ。藁スサの選択によって表情は多彩に変化する。
  歩掛 3.3m2 /人日
特徴 伝統的な「押さえ壁」の仕上げで、かつては一般的な壁の上塗りとして用いられてきた。
  歩掛 2m2 /人日
特徴 京壁の代表的な工法。色土という自然の素材ならではの深みのある優雅な光沢が魅力。高級仕上げの名にふさわしい。
九条土糊捏ね仕上げ   京聚楽錆入り仕上げ   京聚楽長スサ入り仕上げ
歩掛 3m2/人日
特徴 飽きのこないネズミ色が魅力の九条土を用いた代表的な仕上げ。川砂とふのりを混練りした材料を使用する。
  歩掛 3.3m2/人日
特徴 聚楽土に鋼の粉を混入し、水でこねた材料を用いる。施行後、鋼の粉が湿気を吸って錆が表面に現れる。
  歩掛 2.5m2/人日
特徴 10~15cmぐらいに切った藁スサを塗り込んだ仕上げ。素朴で温もりのある豊かな肌合いがある。

土壁塗
健康やリサイクルに適した環境共生型の天然素材
■特色
日本固有の風土や生活様式の中で培われた工法。壁土の種類や調合・工程の選択の自由度も高く、天然素材の色を活かした建築が得られる。防火・防水・防音性などのほか、素材自体が持つ呼吸性から調湿機能にも優れている。無公害で長持ちするうえ、味わい深く経年変化していく。近年になって、健康やリサイクルに適した環境共生型の素材として再評価され始めた。
■適した部位
住宅・一般建築の内外壁をはじめ、塀や天井など適用範囲は幅広い。
■性能評価
空気中の水蒸気を取り込むのにちょうど良い大きさの孔が多数開いているため、調湿・調温機能に優れている。また耐火性や断熱性も高い。
■施工工程
荒壁塗り付け後は通風を良くし、塗り面を十分に乾燥させるようにする。乾燥後のムラ直しや中塗り工程には中塗土を使用。中塗り工程では荒壁土ほど厚塗りしないため、乾燥が速い。塗り重ねが上層に進んでいくにしたがって、塗り厚は薄くなるのが一般的。なお梅雨期の上塗り施工はなるべく避ける。また寒期の施工は凍害に注意し、できれば養生する。
施工工程断面図
(木舞壁下地の場合)
施工工程フローチャート
(※木舞壁下地の場合)
■下地
伝統的なものとして、木舞壁下地がある。木舞は全国的に画一的な工法はないが、縦竹および横竹それぞれの間隔は均等にとり、目透かしは割り竹の幅の約2倍以上とするのが一般的。横竹の元末を1本ごとに交互にして、木舞が平均の強度を保つようにかき付ける。このほかにも適用できる下地の範囲は広く、木摺、レンガ、メタルラス、ALCパネル、石膏ラスボード、コンクリート系下地も使用される。

■材料と調合
荒壁土は藁スサを加え、7日以上水合わせ期間をとる。その際、古土の混入率を多くすれば一般に強度が高くなり、乾燥による収縮も少なくなる。中塗土は荒壁土と同質のものを用い、これに古い藁などを切りほぐして蒸したものを混ぜ、水練りして使用する。土の粘性、作業性は、川砂・スサを混入して調整する。

壁土(l)
川砂(l)
消石灰(kg)
スサ(kg)
糊(kg)
下塗り
100(荒壁土)
0
0
0.6(藁)
0
ムラ直し・中塗り
100(中塗土)
60~150
0
0.5~0.8(モミ)
0


水捏ね
100(色土)
80
0
4.0(みじん)
0
糊差し
100(〃)
100
0
3.2(〃)
1.5(つのまた)
糊捏ね
100(〃)
50
0
0
2.5(〃)
普通大津
100(〃)
0
30
4.0(さらし)
0
 
聚楽土   中途土
■仕上げ
【土もの仕上げ】「水捏ね」「糊差し」「糊捏ね」の各仕上げは、塗り付け後、十分ムラを取り、鋼製の鏝で仕上げる。
【普通大津仕上げ】下塗りは上塗りと同じ日に行う。下塗りの際はよくムラを取り、適度に水で湿らせるが、その際表面の目をつぶし、鏝で押さえておく。
【大津磨き】上塗り後、鏝でよく磨いて、艶が出始めた頃合いに少量の水を含ませた布で塗面をふき、さらに磨きをかける。この工程を数回繰り返し、最後ビロード・フランネルなどで壁面を横一方向にふいてアクを取り、仕上げる。
【砂壁仕上げ】中塗りをよく乾燥させてから、仕上げ材料を塗り籠め、鏝押さえを十分に行い、入念に仕上げる。
■メンテナンス
変形の恐れのある壁貫・木摺板などは使用せず、下塗り層は上塗り層より強くするという原則を守り、乾燥のための養生期間を十分に取る。
木舞かきの作業 貫き伏せ作業 中塗りの施工
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