有害科学物質を発生させる建材

有害化学物質を発生させる建材

【池 本】 確かに、現在の住宅には化学物質が多用されています。塗料や接着剤防ダニ加工のための薬品類などですが、それらがそれほどひどい健康障害を引き起こしているとは、最近まで思ってもいませんでした。
【春 男】 仕上げ材や合板、化繊カーテンやカーペットなど、内装のほとんどが化学建材ですからね。それから、防ダニ剤や床下のシロアリ駆除剤などは強い農薬で、有機リン系の化学物質が使われています。わが家の場合は、有機リンは壁紙から出ていると判明しましたが、見回すと、浴室以外、全室の天井と壁がビニールクロスで仕上げられていたんです。
【池 本】 最近の住宅とくにマンションなどの内装材としては、ビニールクロスやクッションフロアーが主流です。
【春 男】 壁紙の普及は1960年代から始まったようです。当時、約3,000万m2だった生産量が90年には6億1,100万m2と20倍以上に伸びています。それまで主流だった塗壁の工事は、何年も修業をして、やっと一人前という高度な左官技術を必要とします。ところが、壁や天井に壁紙を張って仕上げる方法は、熟練技術がいらず、工期の短縮を可能にしました。なかでもビニールクロスは手間がかからず、施工しやすく、経済効率がよい。加えて、薬品処理をすることで、さまざまな特徴をつけ加えやすい。防火、防カビ、汚れ防止、脱臭、結露防止……。しかし、そのためにたくさんの有害な化学物質が使われています。
【あきこ】 しかも、悪いことに、現代の日本の住宅は気密性が高く、空気が入れ替わりません。さらに、エアコンの普及で、夏や冬はあまり窓を開けなくなっていますね。ですから、いったん有害なものが使われるといつまでも室内に残り、浄化されません。
【春 男】 私たちは自分たちの体験や調査結果などを、医学学会などで発表しました。最初はまったく反響がありませんでした。当時は「室内環境汚染」という概念が日本にはなくて、概念がないというのは、まるで事実がないのと同じなんですね。でも、私たちと同様の苦しみを味わった人たちが、潜在的に多数いたのでしよう。この問題に対する認識が広まりだすと、たちまち全国で大きな問題になっていきました。

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