外装の不具合事例

 一般に、外壁の補修・改修工法は、浮き・ひび割れ・欠損等の劣化現象によって様々な工法の提案が示されます。

 工法にあたっては、劣化の程度・社会的・経済的要因を考慮して総合的に判断する必要があります。具体的には、補修・改修工法の選定は、劣化現象ごとにその劣化程度を診断し、劣化の種類と劣化回数の程度に応じて行なわれます。

 選定にあたっては、劣化現象に至ったメカニズムを解明し劣化原因を考慮する必要があります。モルタル塗り仕上げに最終的な劣化形態である膨れ、剥落が生じた場合は、重大な事故になる可能性があるため、適正な剥落防止の改修工法を採用する必要があります。

【1】劣化のメカニズム

 躯体コンクリートとモルタルとのムーブメントは,常時働くものです。それは、仕上層と躯体コンクリートのムーブメント差により剥離を生じさせものですが代表的な要因は次ぎに掲げます。

熱冷ムーブメント
塗られたモルタル等に太陽の直射熱や、昼と夜の繰返しの温度変化に伴って伸縮、反り等の変形挙動がおきます。これをサーマルムーブメントとも云います。
乾湿ムーブメント
塗られたモルタル等に雨水や湿分の影響で乾燥と湿潤の相互の繰返し変化による伸縮、反り等の変形挙動がおきます。これをモイスチュアムーブメントとも云います。
相対ムーブメント
コンクリートとモルタルとは異なった材料から出来ており、その境界面では当然異なった変形挙動がおきます。これをディファレンシャルムーブメントとも云います。


【2】コンクリートの劣化原因
1. コンクリート中の鉄筋の腐食

 鉄筋コンクリート内部の鉄筋は,コンクリートの強アルカリ性(pH12 ~13)によって覆われ,腐食から保護されているのです。この防食機能の源である強アルカリ性は,主として,セメントの水和の際の副生成物として生ずる水酸化カルシウムによるものです。ですからコンクリートが密実で,厚さが充分確保される場合には,通常では内部鉄筋は容易には腐食しません。

 しかし,コンクリートが表層部からしだいに中性化され,中性化が内部鉄筋に達すると,鉄筋の腐食が始まります。この際,鉄筋の腐食の進行に対して直接的な原因は酸素と水ですが、温度と湿度が大きい影響要因ともなります。


2. 凍害

 寒冷な気候下におけるコンクリートの損傷は,

  1. コンクリートの硬化過程で劣化する「初期凍害」
  2. 長い年月にわたる凍害融解の繰り返し作用を受けて劣化する「凍害」

 の2つに大きく分類されます。「初期凍害」は,寒中工事における施工上の問題が重要ですが,「凍害」と同様に,コンクリート内部の空隙に含まれている水分が凍結し,膨張して生じます。


3. アルカリ骨材反応

 コンクリート中のアルカリ成分(Na2O ,K2O)がある濃度を起えると,骨材がコンクリート中のそれらの成分を含むアルカリ性細孔溶液に侵食され,骨材自体が膨張性を示したり,骨材表面にゲル状の膨張性生成物を生じ,高湿度に曝されるコンクリートに地図状のひびわれが生じ,崩壊性を示すことがあります。この現象はアルカリ骨材反応と呼ばれます。


4. 耐薬品性・耐海水性

 通常,コンクリートは固体状あるいは乾燥した状態での化学物質による侵食は受けないし,一般の水に対しても,また多種類の化学物質を含む土壌でも,十分な抵抗性があります。化学的侵食が起こるのは,ある限界濃度値を越える化学物質の溶液に曝され,温・湿度条件,圧力条件,コンクリートの材質条件等がある適当な状態に設定される場合です。これらの条件の一部または全部を除去できれば,コンクリートの化学的侵食は容易に起こりにくいものです。


【3】モルタルの剥離・剥落に関する用語の定義
1. 剥離(浮き)

 モルタル層と躯体コンクリートとの界面でお互いに接着が不良となり,隙間が生じて部分的に分離した状態です。浮きとも云います。


2. はらみ(ふくれ)

 モルタル塗り層の剥離が進行し,外壁面方向に凸状に浮いて変形が増大した状態です。せり出しとも云います。


3. 剥落(剥離落下)

 モルタル塗り層が部分的にある面積をもって剥離し落下することで,又はその状態を云います。


4. 白華現象

 エフロレッセンスともいう。セメントの水和反応に際して生じた遊離石灰でこの現象があることは雨水の浸入があるということです。


5. ポップアウト

 コンクリート内部の鉄筋の発錆によって部分的な膨張圧で、小部分が円錐型のくぼみ状に破壊され,剥落した状態あるいはその現象を云います。


6. 伸縮調整目地

 幅が伸び縮みする目地で,温度変化や水分変化あるいは外力などによる建物や建物隅部の動きによる損傷をなくすために設けられる目地です。ポリウレタンやシリコン等のシーリング材を目地に使用することが多いです。


7. ひび割れ誘発目地

 コンクリート壁体の水平打継部に沿って壁体面に溝形にまたは凹形に設けた目地です。ひび割れをこの部分にあえて生じるようにしたものでモルタルを塗る場合には、同一箇所に伸縮調整目地を設ける必要があります。


8. 接着強度

 コンクリートとモルタルが接着面に垂直な方向の引張応力に対する強度(引張接着強度)を云います。


9. クリープ

 梁や床版などに積載荷重や自重を持続して加えると、通常は時間の経過と共に撓みは増大ないし時間の経過と共に初期の撓みが増大し、変形を増していく場合があります。これをクリープ現象と云い、梁や床版の下面のひび割れは増大し,危険であります。


外装の不具合対処法

 左官仕上げで特にモルタルで塗り仕上げられている外壁の劣化現象は,劣化の程度や規模によりモルタル表面,モルタル層間の現象,下地構造体を伴う現象があります。これらの現象の多くは一般面よりも庇や庇の鼻先,出隅部分等の特定部に多く発生します。

 左官の塗り仕上げで剥離・剥落がおきる原因の究明は,部位・部材の構法計画や設計と深い係わりがあり、従来の伝統的構法の中にひそむ原理を究明し,長年の経験を尊重しつつ,科学的な新しい構法理論の上になりたったもので究明しなくてはなりません。またそれに至った原因を明らかにし,それらの原因ならびに誘因について検討を加え,構造あるいは構法にのっとって綿密な分析を行ことによって変質が起こった材料に対する保護対策を立案することも必要であります。

 同時に施工過程におけるプロセスを含めて,品質信頼性を確立することが必要であると考えられます。日左連ではこれらのことを各研究機関と綿密な連携を取りながら問題解決に努めています。

【1】1回での厚塗り仕上げ

 コンクリートの施工精度の不良がモルタルの厚塗りにつながるケースの多いことが指摘されます。モルタルは1 度に厚く塗らないことが肝要です。


【2】かぶり厚が不足による中性化

 バルコニー,屋根庇等,片持ちスラブにおいては下場鉄筋のコンクリートのかぶり厚が不足している部分が見受けられ,鉄筋の適正な配置が望まれます。かぶり厚が不足するとコンクリートのアルカリ性による鉄筋の保護能力の低下,即ちコンクリートの中性化ひいては鉄筋の発錆膨張からポップアウトにつながる恐れがあります。コンクリートの打設時にスペーサー等で鉄筋を固定する必用があります。


【3】雨水進入による接着低下

 屋上パラペットやバルコニーの手摺り鼻先の笠木やバルコニーの床に使用した防水モルタルがひび割れの発生により防水機能の低下をおこします。この結果コンクリートとモルタルの間に雨水が浸入して接着力を低下させ,鉄筋発錆の要因となる水を供給する結果となっています。モルタルの厚塗りが要因であり初期養生の乾燥収縮による場合もあります。伸縮調整目地を施すことは有効です。


【4】構造上での亀裂

 左官仕上げによって起きるのではなく、下地の応力の集中によって引き起こされる亀裂です。左官の仕上げ技術では防ぎようのない亀裂でありますが、応力の集中する箇所が推定出来る場合には、補強材を入れたり、エキスパンなどの設定することによって、防げることもあります。


【5】摩耗

 床のモルタルなど歩行動作によって,次第にすり減っていきます。このように,モルタルの表面が少しずつ削られ厚さが減少していく現象です。ポリマーセメントモルタルでの薄塗り仕上げが有効です。


【6】亀甲状亀裂

 モルタルの外壁に発生しやすく、塗り厚の違いや混水量の不適確等が原因です。壁面に地図のような状態で亀裂がおき,大変見苦しく,最も左官仕上げのいやがられる状態です。亀裂がおきた原因を解明して、下地界面の付着状況を確認して補修方法を決定します。


【7】雨水の侵入による外壁の汚れ

 塗り継ぎ部分のひび割れから雨水が侵入し流れ出した雨水によってカビ等が付着した状態です。先ずは雨水の侵入を防ぐための工事が必要である。


【8】シーラー(ポリマーディスバーション)施工方法の不適切

 本来吸水調整材であるシーラーを接着剤として扱い厚塗りすると,コンクリートとモルタルの絶縁層となり,接着力を低下させます。モルタルの接着を阻害しないもので,耐水性・耐アルカリ性に優れる吸水調整材(シーラー)を用います。メーカーの指示に従い,適正な濃度に水で希釈して用いることが必要です。


【9】コンクリート打継ぎ,隣棟ジョイント処理の不良

 コンクリートの打継ぎ部の不良は,コンクリートの中性化,漏水,仕上材のひび割れをまねくおそれがあります。各階の水平打継部には,ひび割れ誘発目地と伸縮調整目地を設けます。コールドジョイントができない様にコンクリートをていねいに打設することも肝要です。


【10】モルタルの調合不良

 モルタルの調合不良により曲げ・せん断耐力が不足すると,いくつかの作用要因によって発生するわずかな応力で剥離・剥落につながります。適正な調合のモルタルおよびコンクリートを使用します。


【11】モルタル塗り厚の過多

 塗り厚が厚いと,界面に生ずる剥離応力は,厚さに比例して増大します。また,温度により反り返ろうとする力も,増大するとされています。モルタルの仕上げ総厚は25 ㎜を越えないようにしましょう。コンクリート用型枠の精度及び剛性を確保する必要があります。


【12】笠木モルタルの防水性能の低下

 モルタル笠木は,直射日光で温度の影響を受ける為,ひび割れが入りやすく防水性能が低下しやすくなります。屋上など日の当たる箇所はモルタル笠木は避けて金属笠木の使用が良いでしょう。


【13】モルタル面伸縮調整目地の不適切

 伸縮調整目地が無いと,モルタルの伸縮による応力の逃げ道が無くなり変形を大きくし,ひび割れが発生させます。適切な間隔で伸縮調整目地を設けることは有効です。


【14】モルタルの乾燥収縮

 モルタルの自由乾燥収縮量は9~12×10 -4程度(1mで1mm程度)であります。収縮をコンクリート面で拘束するため界面にせん断応力が発生し,ひび割れの発生,繰返し応力による接着力を低下させます。乾燥収縮の小さい,ヤング率の小さい(柔軟性のある)モルタルの使用が良いでしょう。


【15】雨水の侵入によるモルタル界面の接着力の低下

 ひび割れから侵入した雨水は,浮き(剥離)の間隔に溜まったり,モルタル内部の空隙に浸透し,寒冷期には凍結して体積膨張し,逆に夏期には水蒸気圧を発生させ,その繰り返しにより次第にひび割れ,剥離を広げます。雨水が侵入すると接着強度は低下するので,十分な接着強度が得られる工法でモルタルを塗付けることが必要です。


【16】ウレタン塗装合板による接着強度不足

 型枠の転用回数を増やすために,ウレタン塗装型枠の使用によってコンクリートが平滑になるため,モルタルの接着不良を招いています。左官下地にする場合はウレタン塗装合板の使用は避けるようにしましょう。


【17】型枠離型剤の後処理不良による接着力の低下

 型枠の離型剤は油性型が多く使用されています。仕上材の下地処理の段階で油膜の除去が不完全であると仕上材の付着不良をまねきます。油性型の離型剤の使用は避けて水溶性の離型剤の使用が良いでしょう。但し,事前にモルタルの接着を阻害しないことを確認して,離型剤を選定することが必要です。