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素材と工法(素材:粘土系結合材料)

  

 

粘土系結合材料

左官塗壁用として天然土質の粘土が使用されていますが、粘土は岩石の風化によって生成する細粒の土質材料で湿潤状態において粘性のあるものを粘土と称しています。粘土(ねんど)は“ねばつち”とも読まれ、粘りけのある土を意味します。土壌学的には通常0.002 mm (2μm)以下の風化作用を受けた二次鉱物粒子をいい、一般には水を含むと粘性をもつ土の総称です。我々にとって粘土は、れんが・瓦・セメント・陶磁器の製造原料となる身近なものですが、太陽系の惑星の中で粘土が見られるのは水の存在が確認された地球だけのものかもしれません。したがって粘土は地球を代表する鉱物ともいえます。

粘土の結晶は微少な扁平な板状または短冊状態で、接触面積は粒系のものより大きくなり広い面積でお互いに引き合うとし、分子間引力が働き硬化します。粘土は鉱物学的に、様々な化学成分、粒の大きさ等によって構成され多種、多様でありますが、左官の壁土は作業工程上、大きく分けて下地木舞に塗る荒壁土、中塗りの中塗土・粉土、上塗りの色土等に分類されます。

粘土の特性
●粘土の固まり方

1.水を含み含んだ状態の粘土粒子

 粘土の硬化機構は、粘土結晶が数ミクロン以内で扁平な板状か短冊で構成されて、表面積が大きく、凝集力の強い働きによっておこなわれます。飽和水を含んだ粘土の粒子表面は、水膜の膨潤水によって、強いマイナス極となり陽イオンを吸着させます。さらに粒子表面の吸着水の水膜によって、表面張力も手伝って凝集力はさらに高まります。これによって粘土粒子はお互いに扁平な接触面積の広いところで引き合おうとするのです。

 


 

2.粘土を鏝で押さえている状態

水を含んだ土の粒子は可塑性に富む性質があります。電極を持つ水が可塑性にさせるので仮に極性をもたないアルコールなどを加えても可塑性は増しません。鏝で粘土を塗り押さえると、粒子は破壊しないでお互いのすべりをよくして、塗り広げられます。塗り付けて鏝を壁土から離しても水膜の引力でその状態のままであり、元には戻りません。そして粘土粒子は規則正しく配列し、乾燥後に水膜の引力が消滅してもお互いの分子間引力が働いて硬化するのです。

3.粘土(壁土)の硬化・収縮

 塗り付けられた粘土は乾燥するにしたがって、粘土粒子を飽和している自由水、水膜の膨潤水、粒子表面の吸着水の順序で蒸発して、その結果収縮します。粘土の収縮は自由水の蒸発で収縮していきますが、大きな特徴は、粘土粒子がお互いに接触するまで収縮が大きく、その後は安定して少なくなることです。したがって、塗って乾燥するまでは収縮は進行するということになります。壁土となった粘土は他の左官材料に比較して、乾燥収縮は大きく、一般に塗り面側より塗り厚側の方が大きいのも特徴の一つです。当然、混水量が多ければ収縮が大きく、砂を配合すれば収縮は小さくなります。

●聚楽土の粒度

聚楽土
電子顕微鏡写真×1000
中村伸博士は左官の土の粒度分布として0.05mm以下を粘土と呼びそれ以上を粒径によって微砂(シルト)、細砂、粗砂、磔に分類しています。粗砂が仕上げに微妙な表現を醸し出します。

●土蔵の壁土

100年経過の土蔵の土
電子顕微鏡写真×80
ほぼ磔質の状態のものしか確認できないようですが、同形の粘土と砂の固まりでもあります。これに新しい粘土と藁すさを追加して練り合わせると良質な中塗土となります。

【1】荒壁土
電子顕微鏡写真
荒壁土 x80

竹で編んだ木舞に最初に塗る壁を荒壁といいます。荒壁は壁を構成する上で重要であるため強度が要求されます。関東地方では火山灰が堆積した土のため、良質な粘土がとれませんが、粘土質が多く荒川沿岸の「荒木田原」と称された近郷の畑、水田の土が良質であるため関東の左官は多く用いていました。そのため荒木田土が荒壁土を代表するまでになったのです。関西では適度な砂と、粘土分を含地層であるため壁を塗る上で良質の土であります。荒壁土を最初に練り合わせるために「水合わせ」を行います。15mm程度の篩を通過する土に水を入れて良く混ぜ合わせ、同時に藁すさを長さ6cm程に切ったものを入れながら鍬で切り返し、足で良く混練りし、少なくとも1週間以上経過したものを使用します。

中村博士は、藁に含むリグニンやペントザンの侵出液の膠着作用によって粘性を増加させると学説しております。

【2】中塗土・粉土
電子顕微鏡写真
粉土 x80
大きな磔質と細かい粘土質のものととの混在が確認できる。

中塗土は中塗り、むら直し、ちり伏せなどに使用し10mmの篩を通過するものを用います。関東では中塗土として適したものが産出しないため荒木田土2,砂1の割合で調合します。その際に古壁土、中でも土蔵の古壁を混入すると、粘性がでて硬化強度が高まります。関西地方の 京都では九条粉土(こつち)、大亀谷粉土、大阪では梨目土(なしめど)と呼ばれて粉土を使用します。中塗土は薄く塗る必要から荒壁を塗るように小石等が混入されていると鏝さばきに影響を与え、かつ上塗面に色斑その他の故障を生じやすいので取り除く必要があります。

【3】上塗り土(色土いろつち)
中塗りの上に最後の仕上げ塗りをします。そこに使用される土は粘板岩・泥板岩の風化したもので、この土を乾燥し粉砕します。京都付近で産出されものが代表的であり京土とも呼ばれています。色土を顔料として使用すると工業的顔料に持ち得ない土独特な色彩を醸し出します。粘土質の多い白土等は大津壁に、砂分の多い聚楽土は土物壁に使用されます。代表的な色土を列挙しますと聚楽土、桃山土、九条土、黄聚楽土、黄錆土、紺土等があります。
【4】-1: 聚楽土

榎本新吉氏所有

色:淡栗灰・灰褐色
産地:京都

聚楽第より産出したことからこの名の由来になる。年を経るに従い独特のわびさびの風合いをかもしだす。現在では京都伏見方面で採取土が代表的です。

【4】-2: 浅黄土

榎本新吉氏所有

色:灰緑色
京都:淡路・四日市

淡路浅黄、伊勢四日市浅黄、江州浅黄、九条浅黄があります。天然産の浅黄土に少量の灰墨顔料を加えることもあります。

【4】-3: 稲荷山土

榎本新吉氏所有

色:黄土色
産地:京都

稲荷山黄土とも呼ばれ京都伏見地方で産出します。黄色の色彩がありそれのみでも使用しますが各種京土の原料にもなります。大津壁や漆喰の顔料としても使用されます。

【4】-4: 大阪土(大亀谷土) (京錆土・本錆土)(天王寺土)

榎本新吉氏所有

色:鉄錆色
産地:京都、大阪

京都伏見の大亀谷地方で産出されます。かつては大阪天王寺付近より産出されたのでその名になります。塊は比較的砂粒混在し、これを破砕すると多くの錆色の斑紋が現れます。色相は帯紅淡黄色であるが風化して褪色したものは黄灰色になります。大亀谷産土は褪色しないのが特徴でもあります。

【4】-5: 白土

榎本新吉氏所有

色:白色、白褐色
産地:滋賀県

白土は単独で使用する事はあまりありません。他の土と混合して用いのはアクが出ないことの長所があるためで、用途は広く、特に大津磨きに利用されています。